愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「……勘弁して頂戴。お茶の時間まで邪魔されたくはないわ。丁重にお断りして」
「あの、よろしいのですか?」
「何が?どんな偉い相手だって、構うことはないわ。お茶の時間だと分かっていて来る方が悪いのだもの」
「その……相手はシュタイナー家のマリア・セラフィニエ姫でいらっしゃるのですが」
その言葉に、シャーリィとアーベントは同時に表情を変える。
「それを早く言って頂戴!断るなんてとんでもない!すぐここへお通しして頂戴!すぐによ!お待たせしてはいけないわ!」
シャーリィの剣幕に、女官は慌てて客人を呼びに行く。
それほど間を置かずに案内されて来たのは、高貴な雰囲気をまとう一人の令嬢だった。
瞳は深いロイヤルブルー。ゆるくウェーブを巻く長い髪は、処女雪のような、一点の汚れもくすみも無い白銀。
水を思わせる青いドレスのよく似合う、稀有な美貌の持ち主だった。
シュタイナー公爵の長女にして一人娘、マリア・セラフィニエ・シュタイナー。
落ち着いた物腰と優美な所作から、ひどく大人びて見えるが、歳はシャーリィより二つ年長なだけの十六歳。
彼女はリヒトシュライフェ七公爵家の中で、シャーリィが好意を抱く数少ない人間の一人だった。