愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「じゃ、じゃあ、三人でお茶にしましょう。セラ姉さまの持って来てくれたお土産を、お茶菓子にして」
慌てて言うと、アーベントは何故か、うろたえたように目を逸らし、口を開いた。
「あ……私は、遠慮させて頂きます。久しぶりの再会に、積もる話もございましょう。私は、少し離れた所で警護に当たらせて頂きますので、どうぞお二人でごゆっくり……」
早口にそう言うや否や、アーベントはそそくさと、回廊の方へ去って行く。シャーリィは呆気にとられ、その後ろ姿を見送った。
「……アーベントったら。私がいると気まずいのね。私が有ること無いこと、シャーリィ姫のお耳に吹き込むとでも思っているのかしら」
苦笑するようなセラフィニエの声に、シャーリィは我に返る。
「セラ姉さまとアーベントって……幼馴染、なのよね?」
確認するように訊いてみると、セラフィニエは静かに頷いた。
「ええ。ずっと一緒の家で、実の兄妹のように育ったわ。最近は、何故だか素っ気無くなってしまったけど。シャーリィ姫の騎士になるということも、直前になるまで私に教えてくれなくて。驚いたのよ。こんなに早くアーベントが“独り立ち”してしまうなんて、思っていなかったから」
「独り立ち……?」
「ええ。アーベントはクライト家の伯父様と同じ、立派な軍人になりたいのでしょう。シュタイナー家にあのままいても、その夢は叶わなかったでしょうし……」
その寂しげな微笑みに、シャーリィは悟った。
(知らないんだ、セラ姉さまは。アーベントが、シュタイナー公の差し金で私の騎士になったことも、政略結婚のことも……)