愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「どうしたの、シャーリィ姫。顔色が少し悪いようだけど。あ……もしかして、疲れているの?そうよね。今日はたくさんの方達が挨拶に見えたはずだもの。無理はしないで。具合が悪いようなら、休んだ方がいいわ」
セラフィニエは本気で心配そうに、シャーリィの顔を覗き込んでくる。
彼女は昔から、よく気のつく優しい少女だった。だからシャーリィも、彼女にだけは気を許したのだ。
彼女はずっと、シャーリィのひそかな憧れだった。
洗練された所作を持ち、大人びた美しさと優しさを兼ね備えた、まさにシャーリィの目指す理想を体現するかのような少女。
(……変わってないわ、セラ姉さま。優しくて、綺麗で……。昔から、ずっと思ってたのよね。セラ姉さまの方が、私なんかより、よほど光の宝玉姫に相応しいのにって……)
そこまで考え……シャーリィはある事実に気づき、愕然とした。
(そうだわ。もし私がアーベントと一緒に逃げたとしたら……次の宝玉姫に選ばれるのは、セラ姉さまかもしれない)
王家に女子がいない場合、次代の光の宝玉姫は、リヒトシュライフェ七公爵家の女子の中から、最も相応しいと思われる者が選ばれる。
年齢や教養、血筋なども重要な選考基準だが、最も重視されるのは、光の宝玉姫たるに相応しい容姿。
そして、シャーリィの見る限り、現在の七公爵家でセラフィニエ以上の美貌を持つ娘は存在しない。
「ねぇ、セラ姉さま。一つ訊いてもいい?」
「え?何?突然改まって」
「セラ姉さまは……光の宝玉姫になってみたいって、思ったことはない?」
唐突な質問に、セラフィニエは瞳を瞬かせた。しばらく考えるように沈黙した後、シャーリィに向けふわりと微笑みかける。
「……宝玉姫を辞めたくなったの?シャーリィ姫」
優しく問われ、シャーリィの心臓がどきっと跳ねた。
「恋をしたのね、シャーリィ姫。どうしても叶えたい恋。だから『片恋姫』のジンクスが恐くなったのでしょう?」
心を見抜いたかのようなその発言に、シャーリィはうろたえ、何も答えられない。
沈黙を肯定と受け取ったのか、セラフィニエは微笑んだまま、ゆっくりと首を縦に振った。
「いいわ。私が引き受けても」
「え……っ?」
「私がそう言ったところで、どうにかなることではないかもしれないけれど……。それでも、可能なら私が替わってもいいわ」
「セラ姉さま……」