愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「元々、おかしな話だと思うもの。王家の娘として生まれたなら、必ず宝玉姫にならなければならないなんて……。女の子にとって、こんなに残酷なことは無いわ。だから、シャーリィ姫が宝玉姫を辞めたいと思うのも、間違ってはいないと思うの」
「でも、セラ姉さまはいいの?光の宝玉姫になりたいと、本当に思うの?」
「……『なりたい』と思ったことはないわ。私は、ただ一人の人に想われれば、それで充分ですもの。でも……私の望む、そのただ一人の人は、決して私を想ってはくれないのよ。だから、いいの」
言って、セラフィニエはシャーリィの顔から目を逸らし、回廊の方へ視線を飛ばす。それは、あまりに哀しい横顔だった。
(セラ姉さまも、恋をしているの?そんなに哀しい顔をするくらいに、哀しい片想いを……)
「そんなことない!セラ姉さまがそんなに想っているのに、振り返らない人なんているはずがないわ!」
気づけばシャーリィは立ち上がり、叫んでいた。
それは慰めなどではなく、本気の言葉だった。
セラフィニエを振る男がいるなど、シャーリィにはとても信じられない。それほどにセラフィニエは、シャーリィの理想で、憧れなのだ。
「ありがとう」
セラフィニエはシャーリィに向け、再び微笑む。だがその微笑みは、どこか寂しげに見えた。
彼女は、シャーリィの言葉を信じていないのだ。
(セラ姉さまったら、どうして、そんなに自信が無いのよ。こんなに綺麗で優しくて、貴婦人の鑑のようなセラ姉さまが『絶対に振り向いてもらえない』なんて、そんなこと、あるはずがないじゃない。きっと相手の人は、まだセラ姉さまの気持ちに気づいていないだけなのよ。もっとアプローチすれば、叶うはずよ。片恋姫のジンクスに縛られているわけでもないのに……)
そこまで考え、シャーリィは今の今まで己がしようとしていたことに、気づく。
(……そうだわ。私が逃げれば、今度はセラ姉さまが、片恋姫のジンクスに囚われてしまう。セラ姉さまの恋も……今はまだ可能性があったとしても、叶わなくなってしまうかもしれない。セラ姉さまの性格なら、きっと運命をそのまま受け入れて、恋を諦めてしまうもの)
シャーリィが光の宝玉を放棄して逃げるということは、片恋姫の運命を別の誰かに押し付けて逃げるということ。
そのことに気づいてしまったシャーリィは、打ちのめされたような思いで、己の心に問いかける。
(私のアーベントへの想いは、セラ姉さまの恋を犠牲にしてまで、叶えたいと思うようなものなの……?)