愛され聖女は片恋を厭う（宝玉九姫の生存遊戯１）
数時間後、シャーリィは覚悟を決めるように大きく息を吸ってから、廊下へ通じる扉を開いた。
「お待たせアーベント。準備ができたわ。会場へ向かいましょう」
現れたシャーリィの姿に、アーベントは軽く目を見張る。
「今日はまた……随分と気合の入った装いですね」
舞踏会のために盛装したシャーリィは、いつもの比でなく美しかった。
スカートは、幾重にも重ねられたフリルでボリュームたっぷりに膨らませた、プリンセスライン。
襟刳りは、彼女の華奢な首筋と肩のラインを、より美しく際立たせる、すっきりとしたロールカラー。
絹のような光沢を放つ白い肌を引き立てるため、チョーカーは黒のベルベットリボンにダイヤをあしらい、モノトーンでまとめている。
普段はふたつに結って垂らしている髪は、幅広のシフォンと細いレースの二種類のリボンを複雑に絡み合わせ、優雅に結い上げている。
豪華でありながら、抑える所はシンプルに抑えたデザインは、衣服や装飾よりも、そこから覗く肌の美しさや身体のラインに目を向けさせることで、身にまとった者をより美しく見せるよう、計算し尽されている。
まさに、美と芸術の国リヒトシュライフェの真骨頂とも言えるような、着用者との“調和の美”が最大限に活かされた、優美かつ気品溢れるドレスだった。
「舞踏会ですもの。女官達も気合が入るわよ。私が他の姫君達と比べて、見劣りしないようにって」
「王宮の女官は皆、姫様の信者ですからね。それではさぞや、お支度に時間がかかったでしょう？」
苦笑混じりに訊いてくるアーベントに答えず、シャーリィは緊張したような面持ちで歩を進めた。
「ねぇ、アーベント。私決めたわ。宝玉姫の運命から逃げないって」
沈黙の後、ふいに零された一言に、アーベントの足が止まる。
