愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
15 仮面舞踏会の夜
同時刻。
控室では、着替えを終えたレグルスが、少しでも会場入りの時間を遅らせようと、ウィレス相手にだらだらと会話を続けていた。
「おい、ウィレス。今回もお前は出席しないのかよ?いいのか?お前、世継ぎの王子だろ?」
「……歓迎式典には出席した。それに、今夜は仮面舞踏会だ。顔を隠してしまうなら、俺が出ていようがいまいが、周囲にはどうせ分からん。だが、お前はちゃんと出席しろ。お前のために催される舞踏会なのだからな」
「お前って本当に苦手なんだな。こういう華やかな場っていうのが……」
言いながら、用意された仮面を顔に付けようとしたレグルスは、ふと何かを思いついたように目を輝かせた。
「そうか、仮面舞踏会か……。いいじゃないか。まさにうってつけの機会……」
「……何をぶつぶつ言っている?また何か、おかしなことでも思いついたのではないだろうな」
「なぁ、ウィレス。一度、別人になってみないか?」
「…………は?」
たっぷり数秒の間を空けた後、ウィレスは「何を馬鹿なことを言っているんだ」とでも言いたげに、声を上げた。
「だから、いつもと全く違う、派手に着飾った格好で、仮面付けて舞踏会に出るんだよ!きっと誰も、お前だって分からない。何せ、いつものお前は、この通りの野暮ったい格好だからな」
「……それで俺に、何の得があると言うのだ」
「だから、全くの別人としてなら、想いを告げることができるだろう?シャーリィ姫に。結ばれることはできなくても、せめて打ち明けることくらいは……」
言いかけた言葉は、テーブルを拳で叩く音と、険しい眼差しによって遮られた。
「シャーリィは妹だ。何度言ったら分かる」
「そうやって、一生自分を誤魔化し続けるつもりなのかよ?誤魔化し続けられるのか?いつかあの子だって、気づくかもしれないぞ。お前が本当は実の兄じゃな……」
「レグルス!」
再び遮られる言葉。だが、レグルスは引かなかった。
「……言っておくが、面白がって言っているわけじゃないぞ。親友としての助言だ。お前、見てて痛々しいんだよ。せめて一時の思い出くらい、自分に許してやってもいいだろう?」
ウィレスは何も答えなかった。
ただその目はじっと、テーブルの上に置かれた仮面に注がれていた。