愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
数十分後。
会場内には入れないアーベントと別れ、シャーリィがホールに入ると、仮面をつけた男女がわらわらと周囲に群がってきた。
「シャルリーネ姫。今宵は一際お美しい装いで……」
「王女殿下。そのイヤリング、とてもお似合いですわ」
シャーリィは仮面の下で苦笑いした。
「あの、私をどなたと勘違いされているのか存じませんが、お褒め頂き、光栄ですわ」
シャーリィの言葉に、皆、一瞬妙な顔をする。だがすぐに、納得したように頷く。
「ああ、そうでした。今宵は仮面舞踏会。真実の名を口にするなど、無粋なことでしたな。失礼致しました」
そう言って笑う仮面の男女の正体が、シャーリィにはまるで分からない。
(ああ、もう。これだから、仮面舞踏会なんて嫌なのよ。仮面を付けていても、周りにはすぐに私だって分かってしまうのに、私には相手が誰なのか、さっぱり分からないんだもの)
人の輪から何とか抜け出し、溜息をついたところで、後ろからぽんと肩を叩かれた。
「何だか元気が無いようですね。麗しき姫君」
「レグルス様……ですか?」
ミレイニ人特有の金褐色の髪に、日に焼けた肌の色。
リヒトシュライフェ人ばかりのこの場所では、いくら仮面で隠したところで、彼の正体はすぐに分かる。
「正解。よく分かったね、シャーリィ姫……と言っても、すぐ分かるか。お互い、特徴的な外見を持っていると損だね」