愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
(お兄様ったら。もう私に正体が分かってしまっているのも気づかずに、大真面目にそんな演技を続けて……)
ウィレスはむっとした顔で、軽くシャーリィを睨んだ。
「私は、真剣に申し上げているのです」
「ええ。そうでしたわね。では、お訊きしますわ。あなたは、私のどんな所を美しいと思われますの?」
シャーリィに言い寄る求婚者達なら、髪の美しさや肌の白さ、瞳の輝きなど、山ほどの賛辞を返してくる質問だ。
だがウィレスは、じっとシャーリィの顔を見つめた後、短く答えを返してきた。
「分かりません」
「え……?」
疑問の声を上げるシャーリィに、ウィレスは考え考え、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「どこが、どうというわけではないのです。ただ、あなたを見ていると、幸せな気持ちになれる。いつまでも、その笑顔を見ていたいと思う。そんなあなたを見ていると、自然と『美しい』という気持ちが、心に湧いてくるのです。満天の星や、澄み渡る青空や、咲き乱れる花を見て、美しいと思うのと似ている。きっと、どの星が美しいだとか、どの空が美しいだとか、どの花が美しいだとか、そういうことではなく……その全てが、美しく愛しい。あなたもたぶん、それと同じなのです」
シャーリィは言葉を返すことも忘れて、呆けた。
夜風の冷たさに、自分の頬が熱くなっていることを知る。
(やだ、私ったら。お兄様にときめいて、どうするのよ)
「ダンスだけでなく、口もお上手なのですね。私でなかったら、一瞬で恋に堕ちていたところですわ」
照れ隠しに、わざと素っ気無い口調でそんな言葉を返す。
ウィレスは、ただ寂しげに微笑んだ。
その顔に、わけも分からず、シャーリィの胸がどくんと脈打つ。
(どうして、そんな顔をするの?お兄様)