愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
そこにあったのは、紛れもない恋情を秘めた、一人の男の目。
その、あまりにひたむきな瞳に射抜かれて、シャーリィは凍りついたように動けなくなる。
ウィレスはシャーリィを正面から抱き締め直し、その顎にそっと手をかける。
シャーリィは為すがままに顔を上向けられ、兄の顔がゆっくり近づいてくるのを見ていた。
心臓が、壊れそうなほど激しく脈を打つ。
吐息が触れ合うほどに顔が近づいた瞬間、シャーリィは反射的に叫んでいた。
「……嫌っ、お兄様っ!」
触れ合う寸前で、ウィレスの動きが止まる。
身動き一つしないまま、ウィレスは頬を打たれたかのような顔で、シャーリィを見つめた。
一瞬、正体を知られたのかと背筋を凍らせ、だが、すぐにそんなはずはないと思い直す。
ウィレスは、先ほどまでのシャーリィの『騙された振り』を完全に信じ込んでいた。
だから、彼はシャーリィの叫びを、兄に救いを求める声と誤解した。
「すまない!」
震えるような声とともに身を離し、けれど、シャーリィの肩を掴む両手は離せぬまま、ウィレスはしばし逡巡する。
これは、二度とは訪れない機会。一生に一度のわがまま。
二度目を許す気は、彼には無い。この先、死に至るまでの数十年、ウィレスはシャーリィへの想いを胸に秘めたまま、あくまでも『兄』として彼女に接し続ける。
本来ならば、今夜のこれも許されぬ行為なのだ。