愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
18 戸惑いの朝
天窓から差し込む白い朝の光が、天蓋の紗幕を通し、柔らかくシャーリィの顔を照らす。
シャーリィは重いまぶたを持ち上げ、ふらふらと身を起こした。
結局あの後、一睡もできずに朝を迎えてしまった。頭の中は未だ、混乱の極致にある。
(……どういうことなの?何故、お兄様はあんなことを……。お兄様は私のことを、そういう意味で愛しているの……?)
思い出し、知らずシャーリィは赤面する。
(知らなかった。お兄様が、あんなに熱い唇を持っていたなんて……)
感触は未だに消えず、思い出すたびに、シャーリィの心臓を激しく揺さぶる。
(勘違いしちゃ駄目よ。これは、恋じゃないんだから。ただ、びっくりしてどきどきしているだけ)
シャーリィは自分に言い聞かせるように、胸を押さえ、心の中で繰り返す。
間違っても『兄』に対して恋心を抱くようなことがあってはならない。
「あの……姫様。いかがなさったのですか?ご気分でもお悪いのですか?」
いつの間に入室して来たのか、世話係の女官に心配そうに声をかけられ、シャーリィは危うく悲鳴を上げそうになった。
「な、な、何っ?私、まだ呼び鈴を鳴らしていないはずだけど」
「いつもの時間をだいぶ過ぎましても、なかなかお呼びがかからないので、ご様子を窺いに参ったのですが……」
言われて時計を見れば、いつもの起床時間をとっくに過ぎている。シャーリィは慌てて言い訳した。