愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「そ、そうなの。今日は気分が優れないのよ。お医者様を呼ぶほどのことではないけれど、一日、部屋で休むことにするわ。皆にも、そう伝えて頂戴(ちょうだい)
 そう言って女官を下がらせ、再び寝台に潜り込む。

 だが、どんなにきつく目を(つぶ)っても、眠りが訪れる気配は全く無かった。

 眠れない時間をただ持て余し、どれくらいの時間が()ったのか……、ふいに扉をノックする音が聞こえた。
 シャーリィは、再び女官が来たのだとばかり思い、入室を許可する声を上げた。だが、そこに現れたのは……

「お、お兄様……っ!? 」
 小さな花束を手に入室してきたウィレスの姿に、シャーリィは狼狽(ろうばい)し、寝台の上を後ずさった。

「気分が優れないと聞いたが……調子はどうだ?」
 対するウィレスは、昨日のことなど無かったかのように、平然とした態度だ。
 その格好も、顔のほとんどが前髪に隠れた『いつもの姿』に逆戻りしていた。

(……そうか。お兄様は、知らないんだわ。私が昨夜、お兄様の正体に気づいていたこと……)

 ウィレスは、一緒に入室してきた女官に花束を渡し、花瓶に()けさせながら、探るようにシャーリィに問う。
「気分が優れないというのは……昨夜、舞踏会で、何か嫌な目にでも()ったから、か?」

 シャーリィははっと顔を上げる。ウィレスの口元には、シャーリィにしか気づけないほど微かに、自嘲(じちょう)の笑みが刻まれていた。

(『嫌な目』って……自分のことを、そんな風に言うの?お兄様……)
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