愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「……兄が妹の心配をしてはいけないのか」
問い返され、シャーリィは返す言葉を失くした。
黙ったままのシャーリィにそっと吐息し、ウィレスは立ち去る。
「……どうなさったのですか。最近、王太子殿下に対する態度が変わられたようですが」
「何でもないの。ただの反抗期よ」
兄の想いを知って以来、シャーリィはウィレスと今まで通りに接することができなくなっていた。
兄のふとした仕草、気遣いの一つ一つに、自分に対する想いを読み取ってしまう。
そのたびに、鼓動が高鳴り、平静でいられなくなるのだ。
そんな自分を隠そうとすると、つい素っ気無い態度、冷たい言い方になってしまう。
最初のうちは、必死に『今まで通り』の態度を取り戻そうとした。
だが、そのうち、このままでいいのだと思い直した。
ウィレスがシャーリィに幻滅し、恋心が醒めるなら、それが一番良いのだと……。
しかし、どんなに冷たい態度を取っても、冷たい言葉をぶつけても、ウィレスの態度は変わらない。
気まぐれな妹に溜息はついても、変わらずシャーリィを気遣い、言葉をかけてくれる。
(どうして?こんなワガママな妹、もう見放してしまってよ。今までも散々、お兄様を困らせてきたじゃない。これ以上、私を気にかけないで。優しくしないで。じゃないと、私……)
そこまで考え、シャーリィはふるりと身を震わせた。
(『じゃないと、私……』何?さっき、私は何を考えようとしていたの?)