愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「姫様」
 アーベントに声をかけられ、シャーリィは再び我に返る。

「やはり、最近少し変ですよ、姫様。寝不足気味だとも(うかが)っていますし、何か悩み事でもお有りなのですか?」
 心配そうに問いかけてくるアーベントに、シャーリィは(すが)るような目を向けた。

(そうだ、私にはアーベントがいるわ。私のことを好きだと言ってくれて……私も、彼のことが好きなはず……)

「ねぇ、アーベント。ちょっと、変なことを(たの)んでも良い?」
「え?……変なこと、ですか……?」

「ええ。私の手に、キスして欲しいの。挨拶(あいさつ)するみたいに、手の甲に……」
「それは、(かま)いませんが」

 怪訝(けげん)そうな顔をしながらも、アーベントはシャーリィの手を取り、その甲にくちづける。
 その感触を味わうように目を閉じていたシャーリィは、すぐに心の中で首を横に振った。

(……駄目(だめ)。何も感じない。お兄様のキスは、あんなに熱く感じられたのに……。どうして?私、アーベントのことが好きじゃなかったの?)

 恋と呼べるか分からぬほどの淡い想いでも、自分はアーベントのことが好きなのだと思っていた。
 だが、あの(ころ)感じていたものと、今ウィレスに対し感じているものとでは、何もかもがあまりにも違い過ぎる。
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