愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

 あの頃は、アーベントの行為にいちいち反応してどきどきしてはいたものの、こんなに胸が苦しくなることはなかった。こんなに頭の中がその人でいっぱいになることはなかった。
 
 シャーリィは必死になって、かつてアーベントに感じた胸の高鳴りを思い出そうとする。
 だが、それはすぐに別の記憶によってかき消されてしまった。

 それは、あの夜のウィレスの声。熱い吐息(といき)とともに耳に吹き込まれた切ない告白。
 それは、おぼろげな胸の高鳴りの記憶より、よほど鮮明(せんめい)に脳裏に(よみがえ)ってしまう。

(――嫌ッ!)
 シャーリィは心の中で耳を(ふさ)いだ。

 思い出してはいけない。それは、思い出すたびにシャーリィの胸をおかしくする。
 苦しくて、どきどきして、自分が自分でなくなってしまう。

(違う!恋なんかじゃない!どうしていいのか分からないから、考えてしまうだけ。胸が苦しいのも、どきどきするのも、きっと何かの勘違(かんちが)いよ)

 シャーリィは心の中で必死に否定した。
 もう否定しきれないほど、その想いが育ってしまっていることに気づいてはいても、ただそうすることしかできなかった。
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