愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
 
 舞踏会の夜から数ヶ月が過ぎ、シャーリィのウィレスに対する冷たい態度は、宮廷中(きゅうていじゅう)の知るところとなった。

 廷臣達は、いつもシャーリィに厳しいことを言うウィレスが、ついに嫌われてしまったのだと、無責任に(うわさ)する。
 その噂が耳に入らぬわけもないだろうに、ウィレスの態度はそれでも全く変わらない。

 行き場の無い想いを持て余して、シャーリィのウィレスに対する言動は、どんどんエスカレートするばかりだった。

 そんな折、舞踏会の数日後にリヒトシュライフェを出て行ったレグルスが、再び満月宮に姿を現した。
 
 
「やあ、シャーリィ姫。皆が噂していたけど、今、反抗期なんだって?」
 リュートをかき鳴らし、メロディーに乗せながら、レグルスは問いかける。

 一人沈み込んでいたシャーリィは、ほんの少しだけ笑った。
相変(あいか)わらずですわね、レグルス様」

「反抗したくなる気持ちも分かるけど、お兄様を悲しませたら可哀想(かわいそう)だぞ。厳しいことも言うが、あいつはそれはもう、君のことを大事に可愛く想ってるんだから」

「それは充分(じゅうぶん)、分かっています」
 その言葉の中に、何か深い想いが(ひそ)んでいるのを敏感に感じ取って、レグルスは眉をひそめた。

「シャーリィ姫、少し見ない間に、どこか変わってしまわれたのかな?」
「え……?」
「以前の君は、恋に恋する夢見がちな女の子だった。でも今の君は、禁断の恋に思い悩む一人の女性に見えるよ」
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