愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
20 双子姫のバラッド
レグルスは溜息を一つつき、リュートを構えた。
まるでバラッドでも歌い始めるかのように、弦を爪弾き、旋律に乗せて語りだす。
「昔々この国に、鏡で映したようにそっくりな、美しい双子の姫君があった。姿ばかりでなく性格も、好きなものも嫌いなものも、得意なものも不得意なものも何もかも同じ。何をするにも一緒。同じ運命を生きてきた」
母と叔母のことを言っているのだと、シャーリィにはすぐに分かった。
「けれど12の年、二人の運命は分かたれる。二人のうちの一人だけが、宝玉姫に選ばれることとなったのだ。大人達は、先に生まれたというそれだけの理由で、姉姫を宝玉姫に選び、王都へ連れて行った。嫌がる二人を無理矢理引き離して、ね……」
シャーリィはその様を思い浮かべ、胸を痛める。
シャーリィもまた、王の娘というだけで宝玉姫に選ばれた。生まれが理由で勝手に決められた運命は、他人事ではない。
「姫君達は、離れ離れになっても互いのことを想い合っていた。毎日のように手紙のやり取りをし、近況を伝え合っていた。そんな姫君達も、やがては年頃になり、淡い恋心を覚えた。けれど、生きる世界の異なってしまった二人は、もう以前のように『同じもの』を好きになったりはしない。地方に残された妹姫は、姉姫の手紙の中の、華やかな宮廷の王子に恋をし、王都から出られぬ姉姫は、妹姫の手紙の中の、懐かしい幼馴染の少年に恋心を芽生えさせた」
レグルスは語り続ける。
「交わされる手紙は、そんな恋心をも、互いに教え合う。姫君達は、互いに恋の橋渡しをしようと、それぞれ姉妹の好きな相手に積極的に近づいていった。だが、それは残酷な結果をもたらしてしまう。16の歳、姉姫は妹が恋する王子から求婚を受け、妹姫は姉が恋する幼馴染の少年から求婚を受けてしまった。姉姫は絶望のままに病にかかり、数年ぶりに故郷に帰る。数年ぶりに再会した双子姫は、同じ絶望を分かち合った。そして……」
そこで、レグルスは一旦唇を止めた。何事か迷うように、旋律だけを何小節か掻き鳴らした後、やっとまた唇を開く。