愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「王都へ戻った宝玉姫は、まるで別人のように王子の求婚を受け入れ、故郷に残った姫君は、やがて幼馴染の少年と駆け落ちすることとなった」
レグルスがそこに込めた含みに、シャーリィは全く気づかなかった。
「……そう。お母様の恋は、見込みのない恋だったのね……。だから、諦めてお父様の妃に……」
シャーリィが気づいていないことに気づきながら……レグルスは、あえて指摘しようとはしなかった。
それは確証のない話だ。誰がどれだけ疑おうと、当事者である双りにしか、真実は明かせない……そういう種類の話なのだ。
ならば、何も疑わずにいるシャーリィの心を、いたずらに騒がせることもない。
「そう。これが皆が噂する、マリア・イーリス姫とその想い人との真実。マリア・イーリス姫は、想いを告げる前に既に失恋していたんだ」
「そうだったの。でも、だったら、私とお兄様が兄妹じゃないというのは……?」
レグルスは再び躊躇うように語りを止めたものの、やがて決心したように口を開いた。