わがままな純愛 ケイレブとユリア
天使は・・
視線を下にしたまま、続けた。

「ええ、結婚をしなければ、
女領主であっても、
他家に嫁いだ姉たちも、その夫も
文句は言えません。
私は直系ですから」

天使はワイングラスを揺らして
声を落とした。
「本当に、領主とは名ばかりで・・・
貧乏な家なのです。

この土地を守るために、
ずいぶんと家財を切り売りしてしまいました。
以前、父は投資の話にのって
しまって、だまされて」

天使の父親は、詐欺師の
いいカモになったのだろう。
身ぐるみはがされたか・・

天使は、テーブルクロスに映る、
揺れるワインの、赤い影を見つめていた。

ケイレブは、天使が揺らすワイングラスを見ていた。

天使は、うつむいたまま、
ほうっと、ため息をついた。

「ただ、今回の件で・・
私には、本当に力がないことを
痛感したのです。

私にできないことを、あなたは、いとも軽々と
やってしまう・・・」

天使の手は、テーブルクロスの
上で、重ねられた。

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