先輩からの卒業 -after story-
「だ、誰……?」
何も言わず、近づいてくるその人影にゴクリとつばを飲んだとき、「ん〜奈子?」と私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「巧くん、起きたの?」
前から歩いてきたのは、微かに瞼を開く巧くん。
まだ酔いは覚めてなさそうだ。
「なんか手伝う〜?」
「寝ててよかったのに。あっ、お水飲む?」
「……んっ。貰おうかな」
巧くんの返事を聞き、消したばかりのキッチンの電気をもう一度つける。
私は冷蔵庫から取り出したお水をコップに注ぐと、巧くんに手渡した。
「ありがとう。これ飲んだら、寝る。明日デート……だから」
ポツポツと紡がれる言葉と火照る頬。
その頬に触れるとじんわりと熱を持っている。
「奈子の手、冷たくて、気持ちぃ」
「明日のデートのことは気にしないで。それよりもゆっくり寝てね?」
そう言うと、空になったコップをシンクに置いた巧くんが私をギュッと抱きしめた。
そして、耳元で囁かれる言葉。
「んー好き。大好き」
……相手は酔っぱらってる。
それは、わかってる。
でも、巧くんから不意に出た言葉に私の頬も同じように赤く染まった。
きっと、触れると私の方が熱い。