はじまりは雨のなか
はじめての異動
大学を卒業し入社して4年、今年の4月に初めての異動を経験した。今までの職場は社内でものんびりとした雰囲気の総務課で、さらに比較的のんびりと過ごせる物品管理を担当していた。
「相川さん、この前頼んでおいた名刺なんだけど出来てるかな?」
同期で営業課勤務の萩原くんが総務課のカウンターから声を掛けてくる。
「出来てるよ。はい、これ。やっぱり営業課は名刺をたくさん配るんだね」
「まだ俺なんか少ない方だろ。先輩たちはもっといろいろと新規の客先にも行ってるみたいだからなぁ。もっと頑張らないと、って思うよ」
「萩原くんは偉いな。だって同期の中で一番名刺を作ってるってことはそれだけ頑張ってるってことでしょ。それでも『まだ』なんて、本当に偉いよ」
「営業なんだから名刺を配るのは当たり前だよ。減らなかったら仕事してないってことになるだろ。あっ、営業課の分が他にもあれば一緒に持っていくよ」
「本当?じゃあお願いしようかな」
そう言って他の人から頼まれていた分も渡す。
「じゃあ、また失くなったら頼むな」
と爽やかな笑顔で帰っていく彼を見送る。
「真由ちゃんの同期だよね。彼なかなか人気者だよね」
「あぁ…なんか分かる気がします」
「仲、いいよね?」
「えっ?別に普通ですよ。祐実先輩?何かあったんですか?」
「まあいいわ」
2年先輩の沖山祐実さんはとても優しくて素敵な人。
何か勘違いしていそうな先輩だったけれど、普通に仕事に戻った。
私の業務は各課から要望のあった物品の発注や払い出し、在庫管理を主に担当していた。基本的に残業もなく私としては満足していた。
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