はじまりは雨のなか
「そろそろ時間だな。次の店どうする?」
と男性陣が相談しているのを眠くなっていた私は遠くで聞いている感覚だった。
紗希に『もう帰って寝なさい』と腕を組まれてお店の外に出る。
そこで萩原くんにもう片方の腕を取られる。
「次行こう」
「ごめん、真由が眠そうだし、私たちもう帰るよ」
「相川は次の店で少し寝かせてやって、それで俺が責任もって相川を送って行くよ。だから行こう」
と萩原くんに腕を引かれる。
「いや、私たちもう帰るから萩原くんたちは行っていいよ」
と紗希が止める。
私が大雨の日に助けてくれた人に特別な気持ちを抱いていたことを知っている紗希が萩原くんを止めるよう動いてくれていた。
私は二人に腕を取られてどちらにも行けない状態になっていた。
そこに紗希のスマホの着信音が聞こえた。
「ごめん。彼から電話だ。ちょっと待ってて」
私の腕から紗希の手が離れると萩原くんに引きずられる。
「俺さ。相川ともっと話したいんだ。だから…な」
いつになく強引な萩原くん…どうしちゃったの?という気持ちがあっても、酔った頭では反論もできない。
このまま萩原くんに付いていったら、あの人を忘れられるのかも…そんな考えが過る。
でも、本当はもう帰りたい。帰って半年間引きずっていたこの気持ちを思いっきり泣いて涙と一緒に流したい。
「やっぱり帰る」と呟くが、萩原くんは手を離してくれなくて、手を振りほどこうとしていた。
そこにお店から人が出てきた。
あの日のあの人だった。