はじまりは雨のなか
二人で駅までの道を歩き出す。
「私…忘れられなくて。また駅でバス停で会えるんじないかって期待してて…でも会えなくて…もう会えないと思っていました」
「そうだね。あの現場の工事はもう終わってしまったから、もう頻繁には行かないからね」
急に立ち止まった彼につられるように私も歩みをとめ、向かい合う。
俯いて聞いていた私の顎に手を掛けて上向きにされると彼と目が合った。
「俺、もう一度君に会いたいと思っていたんだ。足が痛いのに一生懸命大丈夫な振りをして、迷惑をかけないようにしていた君に」
さっきまでどーんと落ちていた気持ちがいっきに浮上する。
「私も会いたくて…会いたかった」
頬に涙が伝うのがわかった。
ふっと笑った彼が頬の涙を拭い、改まったように話し出す。
「同じ気持ちだったんだな。良かった。ようやく言えるな。俺は澤城和哉。32歳、独身。ちなみに彼女はいない。君は?アイカワ…?…」
「私は相川真由です。26歳で…もちろん独身、彼氏もいません」
私たちはお互いの名前を伝えあった。
そして、気がつけば彼の腕の中にいて、頭の上から心地よい彼の声が聞こえた。
「良かった。なんだか安心したよ」
「えっと…?」
「ずっと気になっていたのに…。俺は君の家の場所だって知っていたのに行動出来ずにいてさ。さっきの男に腕を引かれる真由を見て、カッとなって気がついたら手を取ってた」
「あっ、名前呼び…」
「うん。君の名前…知りたかったんだ。で、名前で呼びたかった」
腕の中から見上げて彼を見ると、自然と二人ともに笑顔を向け顔を寄せ合う。
そして、触れるだけの優しいキスをした。
それから私を送るという和哉さんと手を繋ぎ一緒に歩き出した。
未来へ…と。