はじまりは雨のなか
新しい職場はシステム管理課で社内で使用されている各システムの管理開発が主な業務だが、実際にはレスポンスが悪いとか、システムが使い難いから早く違うものに替えろといった苦情を受けることが多い。
「プリンターの調子が悪いのか紙がよく詰まるし、印刷出来た物が汚ないんだよな。これじゃあ客先に持っていけないよ」
と呼びつけられれば、その課に行きプリンターの設定や紙の位置、時には簡易なプリンターの修理をする。分からなくても先輩に確認しながら頑張って対処する。
そして、印刷が出来るようになるまでなんとか頑張るしかないが素人には限界があるので、時には業者へ修理依頼の手配をする。
他にも『なぁ、このシステムで契約書を作っているんだけど修正したいところに文字が入れられないんだ、おかしいだろ。ちょっと見に来いよ』
思うように動いてくれず苛立っているのは分からないでもないけれど、使い慣れていない私より普段使っている同じ課の人に聞いてくれたら良いのに…。そう思いながらも「はい。今から確認に伺います」
と言って受話器を置く。
とにかく見に来い、という一言で今まで立ち寄ったことのない課にも行く。
キョロキョロしていると、声を掛けられ『遅いじゃないか』と言われ、私が使ったことのないシステムの不満を聞かされる。
答えられないでいると『あんたさぁ、システム管理課だよね。そんなこと分からないのにここに来たの?』
今の課に異動してから気持ちが滅入ることが増えた。
以前は名刺の作成やボールペンを渡した時に言われていた『ありがとう』という一言に心がくすぐったくなりもっと頑張ろうと思えたものだったけど、『早くしろよ』とか『何やってんだよ』といった苦情の言葉ばかりを聞いていると気持ちがどーんと沈む。
異動して3ヶ月経ち、いくらシステムというものに興味関心がなかったとはいえ、未だにそういった苦情に一人で対処出来ていない私は周りの先輩方にも迷惑に思われているに違いない。
「早く一人前にならないとな…」
とトイレで呟くことが増え、呟いては気持ちが下降していく日々の繰り返しの中、気がつけば梅雨の時期も終わりそうになっていた。