はじまりは雨のなか
一週間が過ぎ、まだ慣れない仕事に対応していて残業となってしまった。
電車の窓から雷の稲光が見えた。
降りだす前に帰れたらいいな…
そんなことを考えながら外を眺めていると、雨粒が電車のガラスに当たるのが見えた。
最寄り駅が近づいて来たところで、雨が強くなってしまい仕方なく折り畳み傘を準備する。
時間的にちょうどバスに乗れるかどうかのタイミングになる。
駅に着き、急いで改札を抜けるとバス停に停まっているバスが見えた。
歩道を進むと遠回りになるので、いけないと分かりつつも車道を横断して近道する。
この時間はバスの本数も減るから乗り過ごしたくないと考える人もいて、数人がバスに向かっていく。
ひどい水溜まりに怯むも近道のため進むと、ヒールが何かに引っ掛かってしまいパンプスが脱げ、その場から動けなくなってしまった。
「うそ!」
気持ちばかりがどんどん焦っていく。
雨も強くなり、嵌まってしまったヒールをどうにか抜きたくてパンプスに足を入れ直し思いっきり足を引く。
「もう、どうして…」
ビチャ、と転び手をつく。
そこで倒れた体の上から声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
「あっ。…いいえ」
「ここグレーチングとの間に少し隙間ができてて、たぶんそこに踵が引っ掛かってしまったんだと思いますよ」
声を掛けてくれた人は先週見かけた人だった。
その人は水溜まりの中に膝をついて、私の引っ掛かってしまったパンプスのヒールを外してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いいえ。足の方は大丈夫ですか?捻ったりしてませんか?」
外してもらったパンプスを改めて履こうと足を動かした時に痛みがはしった。
「いた、う…痛いです」
しかめた顔を見られて、しまったと思っていると
「やっぱり、捻ってますよね。もしかしてさっき停まっていたバスに乗りたかったんじゃないですか?」
「はい…」
急いで慌てて足元を見もせず走ってヒールを引っ掛けて転ぶとか、恥ずかしくて俯いていると、また声を掛けられる。
「ちょっとここで傘をさしたまま待ってて」
と言って同僚だと思われる人に話をしている。
少しすると車で目の前まで来てくれて、私を抱えて助手席に乗せてくれた。