はじまりは雨のなか
金曜日は会社近くの駅ビル内にある洋風居酒屋さんで少し早いクリスマス会と忘年会を兼ねた同期会に参加する。
紗希と一緒に会場に向かう。
「ねぇ、前に真由が捻挫した時に助けてくれた人には再会できたの?」
突然の話題に会えなかった寂しさが蘇る。
「何度かあの場所に行ったんだけど、残念ながら会えなかったの。駅前の工事も終わってしまって、もうあそこには来ないんじゃないかな」
「そっか…残念だったね。真由、その人のことになると嬉しそうに話してたから気になってたんじゃないかな?って思ってたんだ」
「そうだった?」
「そうだった!」
「うん。ちゃんとお礼も出来なかったし、また会えたらいいな、って思ってた」
もう半年くらい経つのだから吹っ切らないと、と思う。
「そういえばさ。萩原くんがやけに真由のことを気にしてたよ。最近元気がないとか、大変そうにしてるよな。とか」
「そうだったんだ。やっぱり同期っていいよね。困った時に助けてくれたり、落ち込んでいる時に励ましてくれたりして」
普通に答えていると紗希が不思議そうな顔をする。
「もしかして、まったく気がついてない?」
「何を?」
「うーん。まぁ、いっか。うん、真由はそんなところが良いところだし」
と勝手に納得する紗希に私の方が不思議な気持ちになる。
その後はたわいない話をして、お店に入る。
お店で予約の名前を伝えると奥にある個室だと案内される途中で、ずっと会いたいと思っていたあの人がいた。
あの人の姿を見つけ、思わず足を止めてしまうと紗希が振り返った。
「真由、どうしたの?」
「うっ、うん。何でもない。今行く」
それを言うのが精一杯だった。
ずっと会いたいと思っていたあの人がいた。でも、彼は女性と一緒にいた。
頭が真っ白になったみたい…。