しらすの彼
「あれ? 5パックだよね」
「そうじゃなくて……」
「それ、俺のです」
 男の人が恥ずかしそうに1000円を差し出しながら、私に笑んだ。

「ね?」
「は、はい。そうなんです。私は別です」
「一緒じゃないのかい?」
 きょとんとしたおじさんに、二人でこくりとうなずいた。



 気まずいまま私もしらすを1パック買って、スーパーをあとにした。店を出る時にまだ買い物をしていたあの男の人と目が合って、どうも、なんて言いながら会釈し合った。年上なんだろうけれど、はにかんだ笑顔がちょっと可愛い。

 スーパーを出て、暗くなった道をアパートに向かう私の足は軽い。

 ふふふ。
 あの人、初めてしゃべっちゃった。

 彼は、よくこのスーパーで顔を見る人で、実は、ちょっとかっこいいな、なんて思ってたんだ。
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