しらすの彼
 最寄りの駅を出ると、いつものスーパーに足が向かう。

 なんとなく今日はまっすぐ帰りたくない気分だったけど、食事は家でゆっくりと食べたい。こんな時間から一人で遊びに行くのも苦手だし、気分転換したいと思ったらせいぜいスーパーで買い物するくらいだ。

 かごを持って店内に入ると、今日もなかなかの込み具合だった。
 このスーパーは、夜遅くまでやっているし、お惣菜も店内で作っていてすごくおいしい。私も自炊は頑張っているけれど、それでも仕事が遅くなったりするときには強い味方になってくれる。

 お夕飯、何にしようかな。レタスが安いな。んー、あとは……
 献立を考えながらあちこち見ていると、一人の男の人をみつけた。

 あ、しらすさんだ。

 しらすの件以来、あの男の人を勝手にしらすさんと呼ばせてもらっている。
 向こうも私に気づいて、にこりと会釈してくれた。今日は、かごいっぱいにお肉を買っている。鶏肉、特売なのね。
 こないだはキャベツを3玉買ってたし、一体何人家族なんだろう。あれは絶対、食べ盛りの男の子が複数いる家族だわ。

 想像している自分に気づいて、誰ともなく照れる。
 やだ、これじゃ私、ストーカーみたい。
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