夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜

 JFK国際空港から外に出ると見事な秋晴れで、頭上には真っ青な空が広がっていた。

 思っていたよりも肌寒い。
 出発前にトレンチコートかカシミヤのコートかで悩んだけれど、後者にして正解だったと胸を撫で下ろす。
 
 イエローキャブを探そうと道路を見渡したとき、一足先に黄色い車体に乗り込む背中が見えた。

「あっ!」

 思わず声を発した私を振り返ったのは、さっきまで隣に座っていたハンカチ王子だ。

 目が合って、「ありがとうございました!」とお辞儀した私に軽く右手を上げると、彼は爽やかな笑顔を残して車内に消えていった。

「素敵な人だったな……」

 ハンカチを差し出してくれただけでなく、その後は涙の理由を詮索することなく放っておいてくれたのがありがたかった。

 飛行機が止まると頭上の棚から私のスーツケースを下ろしてくれたことといい、女性の扱いに慣れているのだろう。

 ――あんな人が結婚相手だったらよかったのに……

「なんて、今さら考えても仕方ないか」

 第一、あんな素敵な人は結婚相手をお金で買うようなことをしないのだ。

 飛行機で隣り合わせた相手がいい人だった。
 最後の独身旅行に素敵な思い出がひとつ出来ただけでもよしとすべきだろう。
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