夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜

『KUONホテルニューヨーク』は、私が中学校に入学してすぐの夏休みに家族旅行で利用した思い出のホテルだ。

 マンハッタンの中心にあって便利なことや日本語の通じるスタッフがいることから利用したのだが、フロントで観光地の案内をしてくれた女性スタッフの笑顔と立ち居振る舞いが美しく、私もこんなふうに働いてみたいと思ったのがホテルに就職するきっかけとなった。

 ――懐かしいな。

 私は部屋に荷物を置くと、その日はホテル周辺を散策するに留め、翌日の朝からマンハッタン観光に繰り出した。

 以前来たときは家族と一緒にブロードウェイでミュージカルを見たり、5thアヴェニューでハイブランドのブティックを見てまわったりしたものだ。

 犬飼さんと結婚したらバツ3でも新婚旅行に行ったりするのだろうか。少なくとも心からは楽しめそうにないと思う。

 辺りが暗くなる頃にホテルに戻ったが、テレビを見る気になれないし、寝るには少し早かった。

 ――どうしようかな。

 考えた結果、最上階のラウンジバーに行こうと決める。

 お酒はほとんど飲まないのだけれど、こんなときくらいは羽目を外してみようと思ったのだ。

 エレベーターを18階で降りると、すぐ目の前のラウンジに足を踏み入れた。

 アンティーク調のレザーソファーに少し抑えめの照明。天井までのガラス窓からはマンハッタンの夜景を一望できる。

 座席はカウンターを選んだ。今まで会社の人や友達とバーに来たことはあったけれど、カウンター席は未経験だ。

 この際やり残したことはひとつでも済ませておきたい。
< 11 / 51 >

この作品をシェア

pagetop