夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜
「いらっしゃいませ」
席に着くと同時にカウンターの内側から耳触りのよい柔らかい声が聞こえてきた。
その声に聞き覚えがあった私はハッとして顔を上げる。
目が合った相手は機内でずっと隣り合わせていた……
「ハンカチ王子!」
思わず声に出し、「あっ!」と思ったときには遅かった。
彼は一瞬きょとんとした顔をしてから吹き出して、そのまま肩を揺らして笑いはじめる。
「ハハッ、奇遇だね。このホテルのお客さまだったんだ」
「えっ、はい……あっ、ここで働いている方だったんですね」
「そう、バーテンダー。……お客さま、オーダーはいかがなさいますか?」
思い出したように接客モードに切り替えられて、私は慌てて考える。
「私、あまりお酒に詳しくなくて……飲みやすいカクテルをお願いできますか?」
「承知いたしました」
ニコリと微笑んだ彼が作ってくれたのは、グラスの縁にカットオレンジが飾られたカクテル。
一見オレンジジュースのようにも見える。
「ファジーネーブルです。甘めのカクテルでアルコール度数も低いので比較的飲みやすいと思いますよ」
彼に見つめられながら一口喉に流し込むと、口の中に桃とオレンジのフルーティーな味わいが広がった。
たしかにこれなら私でも飲める。