夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜
「美味しいです。私、オレンジジュースが好きなので」
「よかった。ごゆっくりどうぞ」
そう一声かけて、彼はカウンターの端のほうに移動して行く。
常連らしい客と親しげに話している姿を遠目に見つつ、私は予期せぬ再会に密かに胸をときめかせた。
――凄い偶然! そしてバーテンダー姿が格好いい!
白いワイシャツに黒ベストと蝶ネクタイ、腰にはサロンエプロンを巻いていて、細身の体型に似合っている。
機内のときとは違い髪をサイドアップにしているのだが、顔のラインがよく見えるため美形ぶりがアップしている気がする。
ぼんやり眺めていたら、こちらを向いた彼と目が合った。
ふわりと目を細め、私の前にやって来る。
「もう一杯いかがですか?」
空になったグラスを見ながらたずねられ、私は顔を赤くしながらうなずいた。
「同じものを? それとも違うカクテルも試してみますか?」
「えっ、あっ……違うもの……もう少しだけアルコールが強めの……」
私のリクエストに応えて彼が作ってくれたのはキール。これなら私も名前を聞いたことがある。
ワイングラスの中で揺らめく赤色が美しく、甘いのに後味が爽やかで飲みやすい。
たしかにさっき飲んだものよりアルコールが強いらしい。首筋が熱くなってきた。なんだか頭がフワフワしてくる。
火照った私の顔に気づいたのだろう、バーテンダーの彼が心配そうに私を見つめる。