夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜

「美味しいです。私、オレンジジュースが好きなので」
「よかった。ごゆっくりどうぞ」

 そう一声かけて、彼はカウンターの端のほうに移動して行く。

 常連らしい客と親しげに話している姿を遠目に見つつ、私は予期せぬ再会に(ひそ)かに胸をときめかせた。

 ――凄い偶然! そしてバーテンダー姿が格好いい!

 白いワイシャツに黒ベストと蝶ネクタイ、腰にはサロンエプロンを巻いていて、細身の体型に似合っている。

 機内のときとは違い髪をサイドアップにしているのだが、顔のラインがよく見えるため美形ぶりがアップしている気がする。

 ぼんやり眺めていたら、こちらを向いた彼と目が合った。

 ふわりと目を細め、私の前にやって来る。

「もう一杯いかがですか?」

 (から)になったグラスを見ながらたずねられ、私は顔を赤くしながらうなずいた。

「同じものを? それとも違うカクテルも試してみますか?」
「えっ、あっ……違うもの……もう少しだけアルコールが強めの……」

 私のリクエストに応えて彼が作ってくれたのはキール。これなら私も名前を聞いたことがある。

 ワイングラスの中で揺らめく赤色が美しく、甘いのに後味が爽やかで飲みやすい。

 たしかにさっき飲んだものよりアルコールが強いらしい。首筋が熱くなってきた。なんだか頭がフワフワしてくる。

 火照(ほて)った私の顔に気づいたのだろう、バーテンダーの彼が心配そうに私を見つめる。
< 13 / 51 >

この作品をシェア

pagetop