夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜
彼はきっと面倒見のいい人なのだ。
飛行機の中からそうだった。
ただ隣り合わせただけの私にハンカチをくれただけでなく、酔った私を介抱して、そのうえさらにどうにかして救おうとしてくれている。
そのとき私の中で悪魔が囁いた。
「どうにかしたいと思ってくれるのなら……私を抱いてほしい」
「えっ?」
悠の目が大きく見開かれた。
自分がとんでもないことを言っているのはわかっている。
けれどはじめてを捧げる相手くらいは自分で選びたい。
酔った私が『処女をもらってほしい』と言ったのは冗談でも弾みでもない。理性を失い私の本音が漏れてしまったのだろう。
どうせ処女を失うのなら、この人がいい。彼に貰ってほしいと思ったのだ。
――うん、私は悠に抱いてほしい。
「『据え膳食わぬは男の恥』って言うでしょ? 据え膳なので、どうぞ遠慮なく食べてください」
彼の負担にならないよう冗談めかして言ってみたものの、彼の表情は険しいままだ。