夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜

 耳を疑う言葉に絶句する。

 しかしもっと詳しく聞こうとしたところで彼女はカウンターに突っ伏してしまった。

「――おい悠、おまえが責任を持って部屋に連れて行けよ」

 バーの閉店時間になり、未だに起きない茉莉に向かって臣海が顎をしゃくる。

「俺は日本にいる愛妻を裏切るわけに行かないからな。あとは任せたぞ」

 臣海がフロントに電話をかけて部屋番号を調べてくれた。

 そして俺が茉莉を支えて部屋に入り、ベッドに下ろしたところでしがみつかれ……
 そのまま彼女の隣で眠ることになったのだった。

 ――いや、ほとんど眠れなかったけれど。

 泣き疲れて寝息をたて始めた彼女の寝顔を見つめながら考える。

 彼女は本当に結婚するつもりなのか? 
 会社の借金ってどれくらいなんだ。
 俺がどうにかしてやれないだろうか。

 実を言えばどうにかできないこともない。
 俺はとっておきの切り札を持っている。

 ――けれど……

 それは俺が逃げ続けていたものに正面から向き合わなければいけないということだ。

 だからその時点ではまだ迷っていたのに、茉莉を抱いたら吹っ切れた。

 茉莉を救いたい、いや、俺が彼女を手放したくないんだ。

 大切なはじめてを俺に捧げてくれた彼女を幸せにしたい。他の男になんて渡したくない……!
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