夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜
犬飼重行52歳、大手ビジネスホテルチェーン社長、3回の離婚歴あり。いずれも相手は20代。
私の2歳上の姉、紫の結婚相手が24歳も年上のバツ3と聞かされたとき、私はショックのあまり口から心臓が飛び出るかと思った。
「本当に申し訳ない、ぜんぶ私が悪いんだ……」
実家のリビングルームで父が頭を下げたとき、最初は何が起こったのか理解できなかった。
けれど寝耳に水の私とは違い、父の秘書としてそばで見てきた姉は会社の窮状を知っていたらしい。
彼女は「冗談じゃない!」と声を荒げた私の肩を抱くと、「茉莉、お父さんだって苦しいの」と嗜めた。
我が宝生家は先祖を辿れば元財閥系の家柄だ。
傍系なため家柄やしきたりに縛られることは無いのだが、先祖が遺してくれた土地と資産があった。
それを元に祖父が都内で立ち上げたのが食品輸入、卸売り業社の『株式会社 宝生フーズ』。
未上場であるものの年間200億円近くの売上高を誇り、本社の他に2つの工場も持つ中小企業。
今はそれを父が引き継いでいる。
経営は安定しており、私たち姉妹も何不自由ない生活を送ってきたのだが……