夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜

 その犬飼は私を上から下までジロジロと眺めると、「まあ、合格だな」と短く告げた。

 まさしく『品定め』だ。

 隣に立っている父の握り拳がプルプルと震えているのが見えた。

 父だって悔しいに違いない。
 けれど仕方がない、これは取引なのだ。

 彼はお金で年下の女を買い、私たちはその対価としてお金を受け取るのだから。

 そう思って涙を(こら)えていた私だったが、犬飼が「このホテルに部屋をとってある。あとで来なさい」とルームキーを差し出してきた時には流石にショックを隠せなかった。

「犬飼さん、それはあんまりじゃないですか!」

 声を荒げる父を犬飼が睨みつける。

「あんまりとはどういう意味かな? 結婚相手との相性を試すのは当然のことだろうに。そもそも姉のほうを指名したのに代わりを寄越してきたのはそっちじゃないか。文句があるのなら交渉を打ち切るが、いいのかい?」

 言い返そうとする父を制して私が一歩前に出る。

「犬飼さん、失礼いたしました。あとでお部屋に伺わせていただきます」

 そして犬飼の持つカードキーに手を伸ばそうとしたそのとき。

 急に周囲がざわついたので振り向くと、大きく開かれたドアから2人の男性が入ってきたところだった。

 2人のうち先頭に立っている男性は、室内をぐるりと見渡して私を見つけると、真っ直ぐこちらに歩いてくる。

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