夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜
「――でも、ニューヨーク支店長を引き受けて、本当によかったの? 私のために無理してるんじゃ……」
シャンパングラスを片手に語っている悠に、私は気になっていたことを聞いてみる。
悠はあの騒動の際に自分の父親と話し合い、『株式会社乙羽』のニューヨーク支店を任されることになっていた。
多忙になるため『KUONホテル』の週1のバイトを辞め、日本酒バーと『乙羽』ニューヨーク支店の経営に注力するらしい。
「バーテンダーの仕事が好きなんでしょ? 我慢していない?」
悠は片手で私の肩を抱き寄せると、こめかみにチュッと口づけてから会話を続ける。
「バーテンダーの仕事も辞めないよ。バーの業務は知人に任せることになるけれど、経営は俺だし時間があれば店に顔を出すし」
元々ニューヨーク支店を通じてお酒の購入をしたりと関わりはあったそうで、支店のスタッフとも顔馴染みなのだという。
「父親と久しぶりに話して気づいたこともあったんだ。あんな女癖が悪いやつだけど、会社の経営に関してはすごく真面目にやっていて。バーの経営に関してもアドバイスをくれてさ。……俺も、親に逆らって家を出て、けれど結局お酒に関係する仕事をしているんだからおかしいよね」
そう語る表情は柔らかく、なんだかとても嬉しげに見えた。