夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜
「お父さん、わかってる。私だってお父さんとお母さんの会社を守りたいもん。健二さんとはまだ正式に約束していたわけじゃないし、もう納得してるから」
「ううっ、紫……」
「調べてみたら犬飼さんは若い子好きみたいで、過去に結婚した相手も揃って20代だったらしいの。私も数年で離婚される可能性が高いから、それまでの辛抱だと思って頑張るよ」
ことさら明るく振る舞う姉を見ていたら、涙が溢れてきた。
――そんなの駄目だよ!
じつを言うと、私は長らく健二さんに憧れていた。
高校時代、姉に連れられて家に遊びにきた彼は私にも屈託なく話しかけてくれた。
その気さくな雰囲気と太陽みたいなおおらかさに惹かれたけれど、それは恋とも呼べない淡いもので。
もちろん姉から健二さんを奪いたいとか付き合いたいなどという気持ちは微塵も持っていなかったけれど、目の前で理想的なカップルを見てしまった私は理想が高くなっていたのだろう。
同級生から告白されてもなんとなくその気になれず、そうこうしているうちに母の不幸もあって、恋愛のタイミングを逃してきてしまった。
こんなことになるならもっと早く誰かと付き合っておけばよかったと思うけれど、今さら言ってももう遅い。