夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜

「私は恋人もいないし、仕事もホテルのフロント業務だからいくらでも替えがきく。今すぐ結婚したって困らないよ」

茉莉(まつり)、そんなの駄目! あなたにそんなことをさせたら、死んだお母さんに申し訳が立たない」

「お姉ちゃんだって同じだよ! そのうえお姉ちゃんには健二さんがいるじゃない! 悲しむ人が1人でも少ないほうがいいに決まってる!」

 私だって家族の役に立ちたい。

 母が大切にしていた会社と従業員、そして大好きな家族を守りたいのだ。

「それに犬飼さんだっていい人かもしれないし……年上だけど、結婚したら好きになれるかもしれないし……」

 娘みたいな年齢の女性と結婚と離婚を繰り返し、おまけに融資を条件に人身御供(ひとみごくう)を迫るような人だ。
 どう考えても好きになれる気がしない。

 けれどそんなところに姉が嫁入りすることを考えたら、ここで躊躇(ちゅうちょ)している場合ではないと思った。

「私、もう決めたから」

 ――うん、これでやっと親孝行ができる。

 号泣しながら私に抱きつく姉と、肩を震わせてうつむく父。

 その姿を見ていたら、悲しいとか悔しいとかよりも、家族を守れる誇らしさを感じたのを覚えている。
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