夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜

 そして10月も終わりに差し掛かった今日、私は飛行機に乗っている。

 以前家族で旅行に来たことのある思い出のニューヨークに、独身最後のひとり旅だ。

 あれから犬飼さんは私の写真を見て気に入ってくれたようで、まずは実物を見たいと言ってきた。

 11月に都内の企業家が集まるパーティーがあるらしく、そこで顔合わせしてからデートすることが決まった。

 なんだか値踏みされるみたいでいい気はしないが、こちらに拒否権などありはしない。

 それにお金で買われるのだから、実際品評会みたいなものなのだ。

 今回の旅行は3泊4日。

 日系ホテルである『KUONホテル・ニューヨーク』に泊まり、ゆっくり1人で気持ちの整理をつけようと思っている。

 結婚したら仕事も辞めなくてはいけないかもしれない。

 だから独身最後に泊まるのは、私の勤務するホテルのチェーン店、しかも家族で泊まったことのある思い出のホテルにした。

 会社が大変な時期だというのに、海外旅行に行きたいだなんて我が儘を言う私を、父と姉は笑顔で送り出してくれた。感謝しなくてはと思う。

 少し頼りないけれど穏やかな父と、妹思いの優しい姉。

 私が我慢をするだけで2人を守ることができるのなら本望だ。

 ――うん、私が2人のことも会社も救ってみせる。

 そう、これは自分で決めて、自分で選んだことなのだ。

 ――だから、今さらこんなところで泣くだなんて思ってなかったのに……
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