夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜
「――ごめんなさい、ハンカチを汚してしまって」
彼の真っ白いハンカチに微かにアイラインの染みがついてしまった。
ここで洗うことはできないし、買って返すにしても飛行機を降りれば二度と会わないであろう人だ。
どうしたものかと考えていると、彼にもそれが伝わったらしい。ハンカチにチラリと目を向けてから口を開いた。
「そのまま持ってていいよ。あげる」
「でも……」
「いいんだ。また泣きたくなったら使って」
ふわりと微笑んで言われれば、もうそれ以上は固辞のしようもない。
「あっ、ありがとうございます」
「うん、どういたしまして」
彼の笑顔が美しすぎたからか、泣いたところを見られたからかはわからない。
けれど私は異様に顔を熱くしながら、残りの数時間をソワソワしつつ過ごしたのだった。