竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~

「それでは本日この瞬間より、エルナ様はルードヴィヒ様の正妻となります」
 竜人の国、シェーンベルグへ来て一時間も経たずして、エルナはこの国の王、ルードヴィヒの正式な妻となった。
 目の前に立っているルードヴィヒの姿を見つめながら、エルナは〝こんな美しい人の妻になったのか〟と思うのと同時に、あまりに簡潔に終わった婚姻の儀に拍子抜けする。ル^ドヴィヒの透き通るようなグレーの瞳は綺麗でありながらも鋭く、積極的に自分の姿を映そうとはしない。彼はこの婚姻をよく思ってはいないのだと、エルナはすぐに悟った。
 その日の夜、結婚初夜ということでエルナは使用人たちに当たり前のようにルードヴィヒの部屋へと案内された。そこで彼から、思いもよらない言葉が発せられる。
「お前とは一年後に離縁する」
 出会ったその日、夫となった相手から明確な別れの日を告げられて、エルナの頭は混乱する。
そして彼は、使用人たちによって初夜の準備を終え、控えめではあるが綺麗に着飾られたエルナをまっすぐ見据えてこう言った。
「……俺は、美しいものが嫌いだ」
 エルナの瞳が揺れる。
窓からかすかに差し込む月明かりに照らされながら、そう言うルードヴィヒの姿は、息を呑むほど美しかった。
 
「お姉様、外に出たら髪が乱れてしまったの。梳いて綺麗にしてくださる?」
「……わかったわ。そこに座って」

 王都にある大きな商店街に出かけていたアルーシャは、帰ってくるなり姉であるエルナにそう言った。エルナは文句ひとつ言わずに、ドレッサーにアリーシャを誘導し鏡前に座らせると、櫛で妹の髪を梳かし始めた。
 毎日丁寧に手入れされたアリーシャの金色の髪は、特に大きく乱れた様子はない。しかし、彼女が満足するまでエルナは髪を梳かす手を止めなかった。妹の世話をするのは、このアーレント伯爵家の屋敷でエルナに与えられた役目だからである。こんなことは、エルナにとって日常茶飯事だった。
 エルナとアリーシャは姉妹だが、血は繋がっていない。
屋敷の主人であるアーレント伯爵は、エルナの母と結婚しエルナを授かった。その後、夫婦生活に不満を持った伯爵は、ひとりの令嬢を側室に迎えた。
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