クールな自称保護者様も燃える恋情は消せないようです
「ね、行こう?」

低く囁いてくる本田くん。
ちょっと前ならドキッとなるはずなのに、今はザワザワとしかならない。
頭の中で響いていた。あの声が。
本田くんよりも、何倍も色っぽい、お兄ちゃんの声が。

「梨央」

求めすぎて、つい空耳が聞こえてしまったのかと思った。
けど違った。
いつの間にか、お兄ちゃんが私達のそばに立っていた。怒りがこもった眼差しを向けて。
それは私よりも本田くんに注がれていた。
お兄ちゃんが私の手を強くつかんだ。

「飲み会は終わったようだな。帰るぞ」
「なんすか、あんた? 今俺が口説いてたんですけど」

突っかかる本田くんに、お兄ちゃんは冷ややかな声で言った。

「おまえ、だいぶ酔っているな。男がそんなみっともない状態で女に声をかけるもんじゃない」
「はぁ? って、おい……!」

お兄ちゃんは本田くんをあっさりと簡単に担ぎ上げてしまった。

「酔っ払いは迷惑だ。警察に連れて行く」
「は、はなせよ!」

ばたつく本田くんをものともせず、スタスタと歩き出したお兄ちゃん。
本田くんだって身体は大きい方なのに、さすが普段から人命救助で人を抱えたりしているだけある――って、感心している場合じゃない。

「お兄ちゃん! はなしてよ!」
 
私が前に立ち塞がると、ギロとお兄ちゃんは私を見下ろした。
思わず身がすくむ。整った顔でこうも露骨に怒りを滲ませて睨まれると、迫力がすごい。

「じゃあ帰るんだな?」
「帰るわよ」

本田くんを下ろすと、お兄ちゃんは私の手を引いて歩きだした。

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