親にも妹にも婚約者にも夫にも恵まれなかった私ですが、公爵家令息に溺愛されて幸せになるようですよ?
1 私にはズルいが口癖の妹と浮気症の婚約者がいます
私はキャロライン=ギセイシャー侯爵令嬢。
ギセイシャー侯爵家の長女ですわ。
「お姉さまばかりずるいわぁ!」
庭で花壇に水をやっていると、今日も今日とて不快な声が聞こえました。
私は、性懲りも無くその台詞を吐きながら現れた人物に、苛立ちを感じながら振り向きます。
振り向くと、そこにいるのは思ったとおり、ネタミーニャ=ギセイシャー。
私の腹違いの妹ですわ。
妹と言っても、歳は一緒。
あの残念親父、お母様というものがありながら、ヤらかしてくれやがったのです。
「やだぁ、お姉さま、その服どうしましたの?」
ネタミーニャが言っているのは、私の着ている透明感のあるブルーの普段用のドレス。
華やかなフリルが付いていて、金髪碧眼まつ毛フリフリちょっと垂れ目の私が着ると、まるでお人形のようです。
「母方のお祖母様からのお誕生日プレゼントよ」
「狡いわ! 私には何もなかったのに」
それは当たり前です。
何しろ、ネタミーニャの母は父の浮気相手なのです。
本妻の親であるお祖母様が、浮気相手の子に何かプレゼントをする謂れがありませんわ。
なんなら、私のお母様が流行病で夭折してすぐに、ネタミーニャの母であるソネミーニャを妻に迎えたクソ親父に対しても、お祖母様はいい印象を持っていません。
「あなたはいつも、クソ親……お父様とお母様からプレゼントをもらっているでしょう? 私にはあの二人からのプレゼントはないのよ」
「それとこれとは関係ないじゃない! ずるい、ずるいわ!」
「はぁ……」
この娘はいつもこれです。
ずるいずるいと言いながら、私の食事から服からアクセサリーまで、何もかもを奪い去ろうとしてくるのです。
本当に面倒臭い存在です。
げんなりしていると、ネタミーニャが私に泥をぶつけてきました。
うわっ、お祖母様がくださった高そうなドレスに汚れが……。
「お姉さまが悪いのよ! 私にはないのに、そんなふうに自慢して!」
「……貰った洋服を家で着て何が悪いのよ」
「私によこしなさいよ! 今すぐ脱いで!」
「いえ、私も理由があっておめかしをしていたんですけどね……」
この娘がこんな調子なので、私は普段はメイド服で生活していますが、今日は来客があるのでおめかしをしていたのです。
とはいえ、来客者もまた嫌な奴だし、まあ別にいいか。
それにしても本当に、同じ11歳とは思えない女です。
いや、同じではありませんわね。私は今日、12歳になりましたから。
あと1ヶ月は、私の方が年上なのです。
ちなみにこの娘は、残念親父とこの娘の実母が甘やかしまくって育てた横暴の塊。
私が8歳の時にこの娘はギセイシャー侯爵家にやってきましたが、その時から野生の権化のような存在でした。そして、甘やかす側に残念親父が増えたこともあってか、見事な畜生に育ちました。
本当に、どこに出しても恥ずかしい存在です。
「何をしているんだい?」
聞き覚えのある声をかけられて渋々そちらを向くと、思ったとおりの人物がそこにいました。
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