親にも妹にも婚約者にも夫にも恵まれなかった私ですが、公爵家令息に溺愛されて幸せになるようですよ?


 私の掛け声を皮切りに、盛大な飲み会が始まりました。

 気がつくと、心配してやってきただろうお祖父様とお祖母様も窓際の席でワインを飲んでいます。

 私は、「夢かな……夢かな……」と呟いているチルチルの口にチーズを突っ込み、手に水を持たせます。
 そして、絶対に私の話を聞いていない彼に向かって、ヒトデナシーへの愚痴を散々投げつけました。
 私の無限ループな愚痴も、チルチルの耳には入っていないようで、彼はずっと呆けたままです。
 あんまり話を聞いてくれないのも腹が立ってきたので、私はチルチルの持っているチーズを指ごとパクリと食べてやりました。
 彼は「きゃあ!」と乙女みたいな声を出して驚いています。ざまあみろですわ!

 結局、ぐでんぐでんに酔ってしまった私は、さっきまでのチルチルと同じように、机に突っ伏してしまいます。
 一方、ようやく少し酔いが覚めたのであろうチルチルは、突っ伏したままワインの瓶を抱きしめて管を巻いている私に話しかけてきました。

「ほら、お嬢。もうお開きだよ、部屋に帰るよ」
「チルチルの部屋に行くぅ」
「ゲホぁッ!? 馬鹿なこと言ってないで、お嬢!」
「だって、私の部屋もうないもん」
「まだあるよ! いつでも泊まれるように整えてあるから、ほら!」

 机から動かない私を、チルチルは諦めたように抱き抱えて私の部屋に連れて行きます。

「くっそ、あいつら全員いなくなるとは何事だ……お嬢は婚前の令嬢だぞ……いや、結婚はしたのか……」

 私をベッドに寝かせているチルチルが、何かを呟いていますが、私の頭には入ってきません。
 けれども、なんとなく部屋にチルチルと二人きりなことを察した私は、離れようとするチルチルのシャツを握りしめました。

「こら! お嬢、めっ!」
「子供じゃないもん」
「やってることは変わんねーぞ」
「……私、子供っぽいよね。やっぱり魅力がないんだわ」
「え!?」

 ポツリと呟いた言葉に、チルチルがなんだか珍しく慌てています。

「そんなことないよ!? お嬢は綺麗だし、可愛いし……」
「君はモテないから私みたいな美青年と結婚できて満足だろうって言われた」

 静かに言う私に、チルチルは「あのクソ男……」と聞いたこともない低い声で呟いています。

「私って、全然……」
「お嬢」
「う、うぅ……っ」

 チルチルのシャツを握ったまま、とうとう涙がこぼれ落ちてしまいました。
 こういうのは、一度決壊してしまうと、どうにも止め難いようです。

 チルチルは、そんな私を拒絶することなく、静かに頭を撫でてくれました。

「ちゃ、ちゃんと結婚も、できない……情けない、主人で、ごめんね……」
「お嬢は立派な主人だよ」
「……ごめんなさい。ごめんなさい…………」

 そこから私は、声もなく泣き続けて、チルチルのシャツをびっしょり濡らしてしまいました。
 泣き疲れた私は、チルチルに促されるまま、眠りに落ちてしまいます。

 そうして、傷ついた気持ちを吐き出した私は、翌朝スッキリした顔でお祖父様達や使用人の皆に挨拶できるくらいには復活することができました。

 全部全部、チルチルのお陰です。
 いつだって、彼がいてくれるから、私は笑顔でいられます。

 チルチルがいるなら、結婚も恋愛もしなくてもいいんじゃないかしら。

 結婚も恋愛も、私にはきっと向いてないんだわ。


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