親にも妹にも婚約者にも夫にも恵まれなかった私ですが、公爵家令息に溺愛されて幸せになるようですよ?
12 例えば身近にいる彼とかどうだね
あれから、私とヒトデナシーの婚姻は、見届け人の証言及び録音によって無効となりました。
それだけでなく、侯爵家からヒトデナシー個人とヒッキョウ伯爵家に対して、結婚詐欺による慰謝料請求も行いました。
多額の賠償金にヒトデナシーもヒッキョウ伯爵家も目を白黒させていたそうですが、証拠がバッチリあるので抵抗することもできません。
結局、ヒトデナシーは伯爵家を追い出され、一平民として賠償金のためにあくせく働くことになったようですわ。
ただ、これは全て伝聞なのです。
私は、お祖父様とお祖母様、それからチルチルによってヒトデナシーやヒッキョウ伯爵家との関わらないようガードされていて、彼らとはあれから一度も顔を合わせていないのです。
「お祖父様、お祖母様、どうもありがとう」
「可愛い孫のためだ、当然のことだよ」
「こんな時くらい甘えて頂戴。孫を甘やかすのが、私達の生きがいなんだから」
お祖母様に抱きしめられて、私は嬉しくて自分からもお祖母様にしがみつきます。
「ところでな、キャリー」
「はい」
「その……私達も考えたんだが」
「はい」
「お前の、結婚のことだ」
「……」
私は、お祖母様の胸から顔を離して、お祖父様に向き合います。
おそらく私は悲壮な顔をしていたのでしょう、お祖父様が慌てた顔をしています。
「いや、誤解するんじゃないよ、キャリー。無理にとは言わない!」
「お祖父様、大丈夫です」
「キャリー」
「私、貴族令嬢ですもの。政略結婚するのは当然ですわ」
「いいんだ、キャリー。もう我慢ばかりするんじゃない」
お祖父様は、顔をこわばらせている私を見ながら、その肩に手を置きます。
「私達も生い先短い。そしてずっと心に引っかかっているのは、お前が幸せになれるのかどうかというそれだけなんだ」
「……お祖父様」
「お前はギセイシャー侯爵家の血を引く正当な後継者だ。そのお前がいるなら、その伴侶はもう誰だって構わないよ。お前を大切にしてくれる人を選びなさい。例え平民を選んだとしても、どこかの家の養子にするなり、なんとでもしてやるから」
お祖父様の優しい言葉に、私は泣きそうな顔をします。
「……それでだ、えーと、例えばなんだが」
「?」
「身近にいないのか」
「??」
「そ、その……チェレスティーロとか、どうなんだね」
目を丸くする私に、何故かお祖父様とお祖母様の方が狼狽えています。
「いや、お前もチェレスティーロにはよく懐いているだろう?」
「キャリーが貴族学園に行っている間、彼には執事教育を施していたから、領地経営についてはあなたより詳しいかもしれないわ」
「別にだな、無理にとは言わないが、選択肢に入れても……」
「嫌です」
私の言葉に、今度はお祖父様とお祖母様が目を丸くします。
「嫌です、お祖父様」
「……嫌、なのか?」
「はい。私、チェレスティーロとだけは絶対に結婚したくありません」
「でも、そんな。キャリー」
「彼だけは絶対にだめです」
私は、頑なにチェレスティーロとの結婚を拒否しました。
そしてその時の私は、まさか私の言葉を、たまたま廊下を通りがかったチェレスティーロが聞いているとはつゆほども思っていなかったのです。