親にも妹にも婚約者にも夫にも恵まれなかった私ですが、公爵家令息に溺愛されて幸せになるようですよ?


 そんなこんなで手続に追われている中、ジャクリーンはこんなことを言い出しました。

「ほらキャリー、しっかりして。私なんかに嫉妬していたら、身が持たないわよ?」
「どういうこと?」
「彼ってとても顔立ちがいいし、ちょっと距離感近めに話してくれるところが女性の心に刺さりやすいのよね。何より、幸運の青い髪の持ち主だし。……彼、すごーくモテてるわよ」
「!?」

 何やら、ジャクリーンはチェレスティーロを養子にするにあたり、身辺調査を行ったようなのです。
 その結果、彼の行動圏内には、彼に懸想している若い女性が少なくとも4人はいるのだとか。

 どうしましょう。
 それでなくとも私の結婚がうまく行くとは思えないのに、チェレスティーロがよそ見をする候補が4人もいるだなんて!

 不安で不安でしょうがなくなった私は、夜になると毎日のようにチェレスティーロに抱きつきに行きました。

「チルチル、今日も私と結婚したい?」
「結婚したいよ」

「チルチル、幼馴染の女の子と結婚したくなって、私との婚約を破棄したりとかしない?」
「幼馴染の女の子はお嬢だよ」

「チルチル、真実の愛を見つけて、結婚を取りやめたくなったり……」
「お嬢と真実の愛を育みたいとは思ってるけど」

「チルチル、初夜に急に気持ちが変わって『君を愛することはない』とか……」
「お嬢、そんなに不安なら婚前交渉でもする?」

 最後のはお祖父様に頭をはたかれていましたが、チェレスティーロは毎日のように不安そうにしている私を、ニコニコ笑いながら毎日宥めてくれました。

 結婚式の日どころか、初夜の晩まで、私はずっとチェレスティーロに「わ、私のこと、好き?」「私と本当に、一緒にいてくれる……?」と何度も何度も聞いていました。

 そうして、新婚1ヶ月目。

 チェレスティーロにある言葉を言われて、ようやく私も我に返りました。


「――お嬢は本当に、俺のこと大好きだよね」


 ニヤニヤしているチェレスティーロに、私はもう、今までの自分の行動を振り返って、頭が爆発するかと思いました。
 これでは、私がチルチルのことを好き好き大好き状態で、彼がいないと生きていけないぐらいメロメロになっていると言っているも同然ではありませんか!

「ち、ちが、違うの」
「うん? 何が違うの?」
「わ、わた、わた私はその、そんなあの」
「愛してるよ、キャロル」

 「いやああああ」と変な声を上げながら、ベッドの上で転げ回っている私に、チェレスティーロが爆笑しています。

「ねえ、キャロル」
「わ、私を殺して……」
「キャロルったら」
「ううう…………」
「ほら、お嬢。こっちを見て」

 優しい声で言われて、私は仕方なく、毛布の中から顔だけを出します。
 チルチルに『お嬢』と言われると、私は反抗できないのです。

「お嬢は今、幸せ?」
「……知ってるくせに」
「お嬢の口から聞きたい。俺、勝手にお嬢の気持ちを解釈しないように気をつけてるんだ」
「なんで?」
「あー、うん。俺のジンクスだから、気にしないで」

 言葉を濁すチルチルに、私は首を傾げながら、諦めて返答します。

「私、幸せよ。チルチルが一緒にいてくれるなら、これからもずっと幸せ」

 それを聞いたチルチルは、私から布団を剥ぎ取ってしまいました。
 それから抱きしめられた私は、なんだか恥ずかしくて、チルチルの肩をぽかぽか殴ります。

「チルチル、もう!」
「よかった。お嬢が幸せなら、俺も幸せ」
「それだけでいいの? もっとなんでもしてあげるのに」
「うん。だって俺、最初から言ってるだろ?」

 私のチルチルは、心の底から嬉しそうな顔をして、私に言いました。


「お嬢様のお力になることが、私の生き甲斐ですから」


 それから、私とチルチルは世間でも有名なオシドリ夫婦として、ギセイシャー侯爵家を盛り立てていきました。


 こうして私は、親にも妹にも婚約者にも夫(1人目)にも恵まれませんでしたが、青い髪の私の最愛の人のおかげで、ようやく幸せを掴むことができたのです。

 




 〜 終わり 〜

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