親にも妹にも婚約者にも夫にも恵まれなかった私ですが、公爵家令息に溺愛されて幸せになるようですよ?
大人二人とネタミーニャに囲まれ、殴られて床に座り込んでいる私の様子を見て、目尻を釣り上げています。
「ああ、キャロライン! お誕生日だというのに可哀想に!」
「お祖母様……!」
「オロカーノ君、君にキャロラインの養育は任せておけないようだ」
「お義父様! これは、キャロラインが悪さをしたので、しつけで……!」
「しつけで、娘を握り拳で殴る奴があるか!!」
元侯爵であるお祖父様に一喝されて、残念親父は震え上がっています。
「もういい。今日からギセイシャー侯爵家の侯爵はキャロラインだ。君達3人には、この家を出ていってもらおう」
「何を言うのですか! 侯爵は私です!」
「何度説明しても頭に入らないのは、もはや才能なのか? 君は侯爵【代理】にすぎない。元々、侯爵は亡き娘本人であり、次の侯爵は孫のキャロラインだった。12歳に満たない未成年のキャロラインの【代理】の第一権者は親である君だったが、今日でキャロラインは12歳。自分の意思で、代理を選ぶことができる」
そう言うと、お祖父様は床に座り込んだ私に目線を合わせるように跪き、手を差し伸べた。
「可哀想に、痛かったろうキャロライン。さあ、犯人に引導をくだしてやりなさい」
「お祖父様……! 私、お祖父様を代理に選ぶわ!」
「キャロライン、ありがとう。私達は精一杯君を守ろう。今までこんな環境に置いてしまって、本当にすまなかった」
お祖父様は目に涙を浮かべて私に謝罪しました。
お祖母様は、私を抱きしめながら、「遅くなってごめんね」と涙を浮かべています。
「だ、代理だと……!? 違う! 私が侯爵だ!」
「あ、あなたぁ」
「お父様ぁ、どういうことですのぉ!?」
残念親父は、現実を受け入れられないようで、青い顔をしてずっと首を振っています。
ネタミーニャとソネミーニャ母娘も、同様に青い顔をしていました。
お祖父様はそんな三人に、最後通告をします。
「オロカーノ君。いや、オロカーノ。出て行きなさい、君がギャララインに対してやった虐待については国の警備隊にも訴えておく」
「な、何を……! 私は侯爵だ! 出て行くならそっちの方だ!」
「君はただの、オコガマシー伯爵家の三男だよ。自分で身を立てねば爵位を得ることはできない。そして、養子でもなく娘婿に過ぎない君は、ギセイシャー侯爵の地位を手に入れることはそもそも不可能だ」
「そんな馬鹿な!!」
「いや、貴族の常識だよ。まあ君は貴族学園もサボりがちで、卒業も危うかったみたいだから、聞いていなかったのかもしれないがね。……全く、我が娘は優秀だったが、男を見る目はなかったようだ……」
呆れたような、困ったような顔をしているお祖父様に、残念親父は顔を赤くしたり青くしたりで忙しそうにしています。
お祖父様が言いたいことを言ってくれて、私は心の中のモヤがはれるようでした。
それは、この残念親父に対することだけではありません。
お母様に対することもそうなのです。
お母様は優しくて領主としての力量はあったけれども、男を見る目だけは本当に皆無でしたから……死ぬ時までこの残念親父を愛していましたし……お母様のことは好きでしたけれど、ことのこの点に関しては、お母様が亡くなってから4年間、本当に迷惑を被りましたわ…………。
「とにかく、君達にはもう、この家にいる権利はない。オコガマシー伯爵家を頼るなり、君の浮気相手を頼るなり、好きにするがいい」
「ええ!? あなた、まさか浮気なさっていたの!?」
「お、お父様……」
「何を言い出すんだ! わ、私はそんなこと……!」
混乱している三人は、お祖父様の指示によって、衛兵達に引きずられるようにして屋敷を連れ出されました。
こうして私の第一の修羅場は終焉をみたのです。