半径3mの世界で
壁の向こうはお隣さんだ。そこから声がする。

「あーもうっ!!また?!今日も!?いい加減にしてよ、毎日毎晩他人の情事聞かされる身にもなってよ!これだから壁が薄いの嫌なのよっっ!」
ついヒステリックになって叫んでしまった。


そう、この家は築20年の古アパート。

外観も内装もリフォームはされててきれいだけど、壁が薄いのだけは変わりようがない。
だから、他の人の声なんてテレビ消したらすぐに分かる。

就寝時にはこうやって、隣りの人の嬌声も聞こえてしまう。

(おまけに隣のKY彼女、あたしの牽制なんて気にも止めずに声出すんだもの!あったまきちゃう!)

隣に住んでるのは女性ではない。
ちょっと軽そうな茶髪のお兄さんだ。
何をしている人かは知らないが、私よりは年上だろう。
2ヶ月前に彼女ができたらしく、大体毎晩こんな感じだ。
彼女は彼氏のもとに毎日健気に通っている…らしい。
どうでもいい情報だけど。


(あぁ、会社との距離と家賃の安さからこの家選んだけど、こんなところに失敗があるなんて…)

がくりと頭を落とすと、盛大な溜め息がでた。

「あたしに彼氏がいたらこんな騒音ものともしないのにぃ!……う゛ぅぅ゛~!」
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