交際0日、冷徹御曹司に娶られて溺愛懐妊しました
甘いステップの行方
その週末の午後、茉莉花は吉鷹のマンションへ引っ越した。
急な引っ越しにもかかわらず解約に応じてくれたアパートの管理会社が、観月建設の関連会社と知ったときには驚かされた。
もしかして職権を乱用したのではないかと問い詰めたら、吉鷹は「さあ?」ととぼけるばかり。茉莉花は、きっとそうだと確信している。
家具や家電は当日処分し、洋服などはちょくちょく彼のマンションへ運び込んでいたため、最終日の荷物はさほど多くない。吉鷹の車のトランクと後部座席を満杯にしたものの、手伝いにきた両親に見送られてアパートをあとにした。
走りだした車の助手席から約二年間住んだアパートを振り仰ぎ、ふぅと息をついて前を向く。
「もしかして感傷的な気分になってる?」
「帰る場所がなくなったんだなと思って」
もう後戻りはできない。入籍も済ませ、彼との暮らしがいよいよスタートする。
「そんなもの必要ない」
「あ、でも実家がありました」
「おい待て、最初から帰る場所の心配をするほど、俺との生活が不安なのか」
吉鷹が目を泳がせているのが横顔からでもわかる。しかし動揺はちょっとした演技だろう。その証拠に、彼はくくっと笑みを零した。