交際0日、冷徹御曹司に娶られて溺愛懐妊しました

どうか気にならないようにと祈っている時点で、吉鷹を意識しているのを茉莉花は自覚していない。

茉莉花は向かって左側から、吉鷹は右側から、それぞれベッドに入る。リモコンで部屋の明かりが落とされ、一気に視界が暗くなった。
そうなると神経は必然的に嗅覚や聴覚に集中する。いつも吉鷹が寝ているベッドのため、彼の匂いが染みついているのは当然。その香りに包まれ、抱きしめられている錯覚を起こす。

(やだな、私ってそんなに想像力が逞しかった? 違う違う、そうじゃないんだから)

その感覚から逃れようと頭を振ると、今度は耳が吉鷹の動きを拾った。茉莉花の聴覚が間違っていなければ、彼は体を横に向けてこちらを見ている。


「茉莉花」
「は、はいっ」


不意に名前を呼ばれて声が裏返る。挙動不審きわまりない。


「無理強いはしないと言っただろ。俺はそんなに信用ならないか?」
「わかってはいるんですけど……」


キスが初めてなら、男性とひとつのベッドに寝るのも初めて。緊張するなというほうが無理難題だ。
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